No.1 「歌詞について」

最近よくこんなことばを耳にします。「あるミュージシャンから、『どうせ英語わかんないんだから発音
なんてどうでもいいんだよ、意味なんかわかんなくたっていいんだよ』 言われました。」一人や二人
ではなく、何人もの生徒から聞きます。わたしからのアドバイス。"もしそのミュージシャンたちが本心
からそう思っているのだとしたら、そんなミュージシャンは尊敬には値しない。"

英語圏の国で生まれ育ったわけではない日本人にとって、英語を発音するのは確かにとてもむづか
しいことです。でも、少なくとも英語の曲を好きになって、うたいたい、と思ったのだとしたら、少しでも
英語のリズムに慣れる努力はするべきです。また歌詞の意味がわからずに、どうやって聴いている
人にうたいかけることができますか?何故平気でそんなことができますか?
最近ではスタンダード曲の対訳の本もたくさん出ています。中にはとんでもない誤訳をしている本も
ありますが、参考になるものもたくさんあります。自分で何とかがんばって訳してみて、そしてそう
いった本と比べてみる、という努力をするべきです。

そもそも歌詞なんてどうでもいい、という考えは、作詞家への冒とくです。その歌詞にどんな思いを
込めたのか、どれだけの時間を費やしたのか、その歌詞が出来上がるまでにどんな生活があった
のか、などなど想像してみてください。歌詞とその作詞家に共感してください。そういう共感ができ
ない人は少なくとも、アーティストとは認めません。

それにそのミュージシャンは自分が英語がわからないからそんな乱暴なことが平気で言えるのかも
しれませんが、今の日本では英語を理解している人はたくさんいますよ。聴いている人は日本人
ばかりではありませんよ。

 

No.2 「発声のこと」

「声域を広げたいけれど、どうしたらいいですか?」「高い音を出したいけれど、どうしたらいいですか?」
発声について聞かれる質問のトップ2がこれ。本当はもっと大事なことがあるんだけれど・・・・      
でも、この質問に答えるとしたら、”発声なんて大してむづかしいことじゃない。とにかく面白がればいい。」
ヴォーカリストのボビー・マクファーリンは「発声法には5通り以上ある。からだ中どこからでも声を
出せるよ。例えば足の裏からでも。」と言っている。かつて歌手の松田聖子がシンディー・ローパーに
「どうしたらあなたのように高い声が出せるようになりますか?」と聞いたところ、シンディーがこう答
えたという。「そんなの簡単よ。脳天から脳みそが飛び出すように声を出せばいいのよ。」
なるほど、言い得て妙!ただし、どうやったら「脳天から脳みそが飛び出すように」声を出せるかが
問題。答えを知りたい方は、B-HOT VOICE STUDIOのレッスンを受けてみては?

No.3 「声量のこと」

現在のジャズヴォーカルの唱法の生みの親は実はマイクロフォンだと言われています。マイクが誕生
するまでは当然ながらノーマイクで、時にはメガフォンで歌っていたそうです。当時はまだジャズヴォーカル
というジャンルは誕生していなくて、ブルース全盛の時代だったのですが、マイクが登場したことで、
シンガーは歌唱法を大きく変化させなければなりませんでした。それまでのホールの外にいる人にまで
届くような歌い方ではマイクに声が乗らないのです。この変化に対応できずに多くのシンガーが消えて
いきました。そしてこれに見事にマッチしたのがビリー・ホリデーだったのです。もともといわゆる大きな
声を持ち合わせていなかった彼女にとっては、マイクのお陰で多いに活躍の場が増えたというわけです。
マイクを通して歌うことでそれまでにはなかった微妙な表現が可能になり、より自然な歌い方ができる
ようになりました。

このことから何が言えるかというと、歌は声量ではない、ということ。更に言えば声はきれいなのがいい
というわけではない、ということ。もともと声量に恵まれている人は、自分でもそう意識するし、周りからも
「声量があっていいね。」といわれ、またもともと美声に恵まれている人も「きれいな声だ。」といわれ、
そのことに満足してしまう傾向があります。結局どの曲を歌っても同じように聴こえてしまう、ということ
になりがちです。けれど歌はそれがすべてではありません。表現の幅はとても広いのです。声量ひとつ
とっても、うたは別に大声コンテストをしているわけではないので、他人との声量を比較する必要はあり
ません。自分の中でのピアニッシモからフォルテッシモまでを使いこなせばいいのです。そうすることで
うたはより豊かになります。

No.4 「地声について」

「ジャズシンガーは地声でうたわなくてはだめ。」「ジャズシンガーは低いキーでうたわなくてはだめ。」
もしあなたが、こう言われたり、こう思い込んでいるとしたら、今日からその考えを変えましょう。No.3
でも触れましたが、ジャズシンガーが歌う環境は、クラシックの歌手と違って、普通ライブハウスのよう
な狭い空間で、しかもマイクを使ってのパフォーマンスになります。まずここがポイントです。
そしてライブハウスでの演奏スタイルはピアノ、ベース、ドラム、ギターという、リズムセクションを
バックに(時にはトランペット、サックスなどの管楽器も加わります)歌うことが普通です。こういう環境で
自然に聞こえる(サウンドする)ためには、いわゆる地声を基本にした発声で、大体地声でカバーできる
キーに設定するというのが好ましいということは言えます。

けれど声は十人十色です。そして表現したいこともひとりひとり違います。自分らしく自然であることが
大切です。20歳の人が無理して50歳の人のように歌う必要はありません。演劇と同じようにその役に
なりきってみようという意図を持ってうたう場合であれば、それはそうすべきです。ただしこれはなかなか
簡単にできることではありません。まずは自分らしくうたってみることから始めてみましょう。自分なりに
その歌詞を理解して今の自分らしくうたってみましょう。大人っぽく、夜の雰囲気でうたわなくてはいけ
ないので、低いキーで地声でうたおう、などという思い込みを捨てましょう。もしあなたが60歳だったら、
20
歳の気分でうたうのはとても楽しいことです。そしてこれは一度は経験している時代なので無理な
ことではありませんね。でも、今の自分の年齢でしかうたえないうたをうたう、というのも楽しいことです。
たとえ声域が狭まくなった、高音がでなくなったとしても嘆くことはありません。自分にとってもっともふさ
わしいキーを見つけてうたえばいいのです。


地声が出しにくいという人がいます。その多くが普段話すときも裏声になっている人です。もしそうだと
したら無理をして地声で歌う必要はありません。歌うと別人のように、なんだか怖い人になったように聞
こえてしまって、やはり不自然です。普段話しているようにうたいましょう。普段話しているように、という
ところがポイントです。それを基本にしてください。うたは日常を離れた世界を表現するもの、という考えも
あります。もちろんそれはそのとおり。でもそれは「日常」を表現できた上での話しです。なにごともステップ
が大事です。基本を押さえずに先のことばかり考えると大ケガのもとです。

 

No.5 「曲について」

歌を勉強するには、ジャズシンガーのCDをよく聴くというのはもちろん大切です。けれどここで注意し
なくてはいけないことがあります。あなたが聴いたのは、「そのシンガーのうた」だということです。
もう少し分かりやすく言うと、ある曲に対する、そのシンガーの解釈、思いだとういうことです。そこには、
そのシンガーだけの声、そのシンガーの歴史、考え方があります。つまり、そのシンガーだけのもの、
ということです。それをよくわかって聴くべきです。ある曲をあるシンガーのCDでコピー(模倣する)する。
また別のある曲を別のあるシンガーのCDでコピーする。では、あなたはいったいどこにいるんでしょう?

たとえば、有名なヘレン・メリルがうたう"You'd Be So Nice To Come Home To". たしかに素晴
しい歌唱です。けれど、あれはヘレン・メリルというシンガーが生み出したうたいかたです。"You'd Be
So Nice To Come Home To"
はコール・ポーターが作った名曲です。コール・ポーターが詞を書き
、曲を書いたのです。もし"You'd Be So Nice To Come Home To"という曲を歌おうと思ったならば、
まず曲そのものをよく知るべきです。作曲者がどういう意図でメロディーを書き、そのメロディーにどんな
思いを込めたのか、どういう気持ちでその歌詞を書いたのか、何を伝えたかったのか、ということを考
えるべきです。つまり、共感するべきです。すべてはそこから始まります。譜面が読めない、英語が
わからない、というのは、言い訳です。本当にその曲をうたいたいのであれば、譜面を読もうと努力をする
べきです。英語を理解しようという努力をするべきです。もしあなたが本当にジャズヴォーカルが好き
ならば、きっと努力をすると思います。知りたいと思うはずです。

"You'd Be So Nice To Come Home To"という曲そのものに共感して、理解して、初めてあなた
にしかうたえないうたがうたえるのです。誰のものでもない、あなたの内側から生まれてくるうたがうた
えるのです。そして、他のシンガーのうたも理解できるのです。
「ああ、そうか、ヘレン・メリルはこういう風に解釈したんだな。こういう思いを込めたんだな。だから
こういう風にうたっているんだな。」というように。もちろん他にもたくさんのシンガーがこの曲をうたって
います。できるだけ色々なシンガーの歌い方を聴いてみるといいでしょう。

例として"You'd Be So Nice To Come Home To"を挙げましたが、もちろんどの曲についても同
じことが言えます。曲そのもの、メロディーと歌詞、を愛しんでください。そうすると、曲があなたに応え
てくれます。



No.6
 「ジャズヴォーカルを勉強するときに必要なこと」

ジャズヴォーカルを勉強する人で、ジャズヴォーカルのCDしか聴かないという人がたくさんいます。これは
はっきり言って間違っています。ジャズヴォーカル・ファンであれば構いません。けれどもジャズヴォーカル
を勉強しようという人は、これではいけません。

ジャズヴォーカルというジャンルはジャズという音楽の中では特殊なジャンルです。ジャズピアノ、ジャズ
ギター、ジャズトランペットetc..とは明らかに違います。つまりジャズの大きな特徴であるアドリブをしない
ということです。極めて稀に楽器奏者と同じ考え方でアドリブをするヴォーカリストもいますが、ほとんどの
ヴォーカリストは違います。ビリー・ホリディ、エラ・フィッツジェラルド、サラ・ヴォーン、カーメン・マクレェ
も違います。もちろんこの偉大なヴォーカリスト達はアドリブすることはできました。ただし、実際のステージ
でジャズミュージシャンと同じようにアドリブすることはありませんでした。こういうことから、ジャズヴォーカル
はジャズ音楽ではないと言うこともできます。

けれども、エラやサラやカーメンといった偉大なジャズヴォーカリスト達は、ジャズミュージシャン達との交流
の中で自分のスタイルを作り上げていきました。自分もジャズミュージシャン達のようにうたいたい、という
思いが根底にあります。少なくとも、ジャズミュージシャンと「一緒に」音楽をしたいという考えがあります。
「一緒に」音楽をするためには、ジャズミュージシャンが何をやっているのかわかっていなければいけません。

何もジャズ理論を勉強しろ、ということではありません。同じようにリズムを感じ、同じようにサウンドを聴く
ことができればいいのです。そのための最も効果的な勉強法が、ジャズミュージシャンの演奏を聴くという
ことです。ジャズミュージシャンのバッキングでうたうことをジャズヴォーカルだと考えるならば、これは必須
です。ジャズの歴史上の名演と言われているものをどんどん聴いてください。
そして、耳と体で、ジャズのリズムとサウンドを吸収してください。初めは全体を聴き、次には、ピアノだけ、
ベースだけ、ドラムだけetc...というように一つ一つの楽器に耳を集中して聴き、そしてまた全体を聴く、
という聴き方をしてみるといいと思います。時代によってリズムやサウンドが変わっていくのも知っておくべきです。

そして改めてジャズヴォーカルのCDを聴くときには、今度は、ヴォーカリストのバックでミュージシャンが
何をしているか、どんなバッキングをしているのかに注目して聴いてみて下さい。


No.7 「ジャズの考え方」

「結局ジャズって何ですか?」と質問されることがあります。一言で説明するのは難しいのですが、ヒントに
してもらえればいいかな、というつもりで少し書いてみましょう。

例えば富士山を思い浮かべてください。山梨県側からみる富士山と静岡県側から見る富士山では見え方が違いますね。でも同じ富士山です。朝見る富士山、夕方見る富士山、夏見る富士山、冬見る富士山、雪を頂いている富士山すべて見え方が違いますね。でも全部同じ富士山です。また実際に富士山を上ったら、その姿はまったく見えないからあの富士の形はそこにはない。でも自分が登っているのは明らかに富士山。富士山をある方向からしか見たことがない人や、同じ時季にしか観たことがない人にとっては、今まで自分が知らなかった富士山の写真を見せられたら、これは富士山じゃない、と言ったりします。でもそれは富士山です。そして写真ではなく、ある人が描いた富士山を見て、これは富士山じゃない、と言ったりします。でもある人には富士山がそのように見えたのです。その人にとっての富士山なのです。

 

ジャズはこれと同じだと考えてください。同じ曲、同じ譜面を見ても人によって聞こえ方、捉え方が違います。それでいいのです。大事なのは自分と違う捉え方を否定しないということです。認めることです。人はみんな違います。

 

アドリブにもフェイクにもこれと同じことが言えます。ある曲をまず原曲に添って演奏する(うたう)。つまりテーマを提示する。そして次に違う方向へ、違う角度で、違った見方をしてみよう、あるいはテーマから話を展開していこう、これがジャズのアドリブの考え方です。だから一つの曲が本当にあっという間に様々な形に変わっていきます。それがジャズの面白さだと言えます。ひとりひとり顔や体つき、考え方が違うように、その表現方法が違って当たり前なのです。それを認めようというのがジャズの基本的な考え方です。

 

 

 

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